乳癌 余命1ヶ月の花嫁の鎮痛

有名人が乳癌になったことを公表するたびに、自分も乳癌ではないかと診察を受けに来る患者さんが急増します。

早期発見し、治療をする機会が増えることはとてもいいことです。

昔は、乳癌は何科に行けば治療してくれるのかさえわからない人も多かったそうですが、インターネットの普及でそういう人も少なくなりました。

(通常は外科で治療します。乳腺外科という名前があるところもあります)

 

小林麻耶さんの妹のアナウンサーの小林麻央さんが残念ながら亡くなったことで、市川海老蔵さんの奥さんでもあったことから、誰もが乳癌に関心を持ったと思います。

さくらももこさんも若くして亡くなってしまいましたが、

北斗晶さん、南果歩さん、生稲晃子さんなど、治療後も活躍されている方も多いです。

 

アンジェリーナジョリーさんは、癌抑制遺伝子BRCA1に異常があるため、まだ癌になっていない段階で癌予防目的で卵巣や乳房を摘出するという特別な例もあります。(癌になる可能性があるだけで乳房を摘出することは一般的に行いません)

 

このような報道があると、自分が病気になったことをきっかけに、より家族を大切に思ったり、同じ病気で苦しむ人を少しでも減らそうと頑張っている女性がいっぱいいることを実感する反面、

そういう人たちのあらさがしをする悪意のある人達のネットなどでのコメントを見て残念な気持ちになります。

また、病気に苦しんでいる人につけこんで、高額な金銭を巻き上げる人達がいることも悲しいです。(乳癌になった方には女性が多いせいか占いや宗教、健康食品のようなものに騙されるような人が多い印象があります)

 

2007年に長島千恵さんという一般人の方が、24歳の若さで乳癌におかされ闘病中に恋人と模擬結婚式をする様子がTBSで報道されました。

その後、残念ながら、すぐに亡くなってしまいましたが、

そのテレビ放映の反響が大きく、2009年に余命1ヶ月の花嫁という映画が製作されるとともに、

ピンクリボンプロジェクトキャンペーンが展開されました。

 

もうちょっと詳しく言うと

長島千恵さんが、彼氏と付き合い始めた頃に乳癌になってしまいます。

乳房を切除したくない千恵さんは抗癌剤治療で頑張りますが、

抗癌剤での治療はうまくいかず、結局左乳房切除し放射線治療をした後いったん元気になります。

社会復帰し仕事を初めてすぐに肺のまわりの胸腔に転移し再入院。

骨の転移による痛みと肺への転移による呼吸困難。

本人は医師からの説明は拒否するが、親族に余命1ヶ月と宣告される。

お父さんの意向でそのことは本人には伝えなかった。

一方、ウエディングドレスを着たいという夢があることを聞いていた友人は、教会で写真を撮ることができるよう必死に手配する。

亡くなる直前に恋人と模擬結婚式を挙げたということでした。

 

テレビや映画で話題になるとなぜか悪意のあるバッシング報道がたくさん流されました。

 

TBSはよくヤラセ報道を行うので、TBSに対する不信感は仕方がないことですが、

ご本人の過去や父親、恋人、友達にいたるまで、誹謗中傷する人たちの気持ちがわかりません。

ネットでの無責任な発言だけでなく、週刊誌などでもあることないこと書きたてられていました。

人の死を商売にするなとえらそうなことを言っている週刊誌がいました。

人の人生をも左右させる内容を書き、人のふんどしで儲けていながら、なんて白々しい事をいうのでしょうか。腹ただしいことです。

個人的には、ご本人とご家族が納得されていれば、本来、誰のマイナスにもならないはずなのに、言論の自由が守られているとはいえ執拗にバッシングする人達がいるのが気持ち悪いです。

(映画の方も厳しい批評をする人がいて、世の中の一定数がめちゃくちゃ厳しい人がいることを知ってショックですが、これは感性の違いですから仕方ないでしょう)

「何しているの?」という問いかけに「生きている」と答える長島さんの映像を見て心を動かされない人がいることが不思議でなりません。

 

 

 癌で苦しんでいる人は、様々な状況にいますので、

不安や恐怖をあおられる人もいれば、

共感して勇気が出る人もいます。

そこが難しいところなので、できる限り真実を前面に出すことが重要になります。

 

例えば、乳癌の化学療法には吐き気や神経痛などのつらい副作用を伴うことが多いですが、

手術による体の負担はそれほどではありません。

どちらかというと精神的なつらさの方が大きいです。

 

癌の手術による治療は、癌の切除を目的としていますが、

内臓や骨のような体の奥の癌の場合、体にかなり負担がかかります。

それに比べますと、体の表面にある乳癌は、奥まで切除してもせいぜいリンパ節までなので、体の奥までいじりません。

ということは、体への負担も少なく、術後の痛みも比較的少ないものになります。

術後、普段と変わりなく生活するまで数日もかかりません。

しかしながら、女性にとって大切な乳房を切除する喪失感は強く、心のケアの方が重要かもしれません。

実際、患者さんの体調は悪くなく、手術も数時間もかからなかったにもかかわらず、

他の手術に比べて、手術前後に強い不安を感じてる患者さんがとても多いです。

手足を切り落とすとないはずの手足の場所が痛いという幻肢痛という症状がありますが、まれに乳癌の手術を行った人の中にも幻肢痛の症状が出る人もいるらしいです。

 

化学療法で辛い経験をされた人やご家族のことを考えると不安になってしまうことはとてもわかりますが、乳癌の手術は全身麻酔であっという間に意識がなくなり、わからないうちにすぐに終わってしまう手術です。

数日間少しつっぱるような痛さだけで済む人がほとんどです。

病院によっては、全身麻酔と併用して傍脊柱ブロックという背骨のわきに注射をすることで、さらに痛くないようにするところもあります。

 

乳房再建をする場合は、手術に時間がかかったり、何回かに分けて手術を行う必要が出てきますが、通常の乳癌の手術でしたら、あっという間に終わりますので安心してください。

 

手術や化学療法、ホルモン療法、放射線療法などで治療がうまくいかず、病状が進んで転移が伴うと様々な痛みや辛さがでてきて

緩和的な治療が必要になってきます。

 

TBSのドキュメンタリーの中で、

緩和医療の側面から見ると配慮してほしいことがありました。

 

どうしてもテレビ局がやってしまうことは、ドキュメンタリーだったとしても、視聴者が求める感動的な話にもっていく編集を行うことが多いです。

 

長島千恵さんの母親は卵巣癌で亡くなる直前に当時最期に使用される薬であったモルヒネを投与され、意識が混濁し会話ができなくなります。

そのことを覚えている千恵さんは、どんなに痛みが強くともモルヒネを使用しません。

 

病気に耐える健気な患者とそれを支える家族や友達という構図を作り出すため

病気や手術=辛くて怖いもの

痛みや苦しみ=耐えることがカッコイイ

という編集をしがちです。

結局、千恵さんには内緒でフェンタニルパッチという合成麻薬の貼り薬を使用したら、とても調子が良くなり、その威力は絶大で一時的に痛みから解放されました。

確か最初の頃の放送では、神様が最後に調子を良くしてくれた的な感じで報道されていたように記憶します。

もしかして、緩和医療関係者から指摘があったのかもしれません。

映画では、ちょっと少女漫画のようになっていたので、あまり医療的な話は出てこない内容でした。

 

テレビでも映画でも、若くて死と直面した女性が、死の間際に結婚式を挙げたことの方がメインの話だったので、もう少し、癌が見つかった経緯や、治療法、鎮痛法なども掘り下げた報道をしていれば、癌に悩んでいる他の人たちにもっと役だったのにとは思います。そうすると説教くさくて見る人が減ってしまうかもしれないところが悩ましいところです。

 

また、映画化の際にはピンクリボンプロジェクトを展開し、

多くの人が乳癌検診を受けることになりました。

その時点では、どのような検査が、どのくらい有用性があるのかということは、ほとんど議論されず、とにかく若くして乳癌になりたくなければ、検査を受けろというものでしたので、映画のキャンペーンに利用されたように感じる人もいたかもしれません。

 

死ぬ直前に安楽死目的のように使用されていた昔に比べて、

今は、癌の痛みをコントロールする手段がとても増えています。

きちんとした医者と鎮痛薬を理解した患者が使用すれば、

副作用は、吐き気とか便秘とかそういものが主で、

痛みが減ってかなり活動的になる人が多いです。

 

癌はポックリ死なない分、それを恐怖と感じる人が多いが、

死ぬまでに準備期間がある病気とも考えられるとある人が言っていました。

早めに鎮みに対処しておくと、

その準備期間にいろいろなことができるのだと。

 

余命1ヶ月の花嫁の映画では、

主人公は、親にも恋人にも乳癌のことを隠したままで、抗がん剤治療を行い、

副作用がばれて初めて周囲に知らせます。

これでは、早くから適切な治療を選択することも難しいです。

 

今の癌治療や鎮痛の質がなぜ向上したかといえば、

ただ医療が発展したことによるものではなく、

癌患者への告知が行われるようになったことも理由の一つです。

 

怖がりの女性を不安にさせないように、周囲が隠す場合も多いですし、

検査結果を聞きたくないという患者さんもいます。

しかしながら、

治療も鎮痛も、正しい情報がなければ正しい選択はできません。

ご本人に病気を隠したままではやれることは限られてしまいます。

病気になったら、ご本人も病気について勉強することが回復の早道です。

 

インターネットで簡単に調べることができる世の中ですが、注意も必要です。

病気で不安な人につけこむやからもいることです。

 

簡単にいえば、

  • 保険診療である治療ならばある程度信頼できる。
  • きちんとした医師がやっている学会の情報を見る。
  • 専門資格をもっている医師ならある程度信用できる。
  • 良いことしか言わない医師は、詐欺に近い。
  • 代替医療で治る病気は、何もしないでも治る。
  • 保険適応外の治療は人体実験ともいう。
  • 治療に詳しい人が鎮痛も詳しいとは限らない。

小林麻央さんもさくらももこさんもあやしい治療に高額なお金を使ったといううわさがあります。

お金持ちが、不安を紛らわせるために、どんなことにお金を使おうと本人の自由ですが、それにつけこむ輩は許せないですね。

基本的に国民皆保険の日本で、お金を積めば命が助かるというような画期的な治療法はないと思ってください。

きちんと保険料を払っていれば、平等にきちんとした医療を受けることができるのが日本の良いところです。

むしろ、小金持ちが、あやしい保険適応外の医療を受けて、ひどい目にあうことも多いので、注意してください。